今、製造業においてサプライチェーンの分断が大きく取り上げられています。需要の面では、急激な需要変動によりリアルタイムでの在庫状況の把握が必要になりました。供給の面では、部品供給の不安定さにより製品の品質低下や生産停止、納期遅延などに影響がみられました。
課題に直面している製造業では、この経験を踏まえて柔軟に需要と供給の変動に対応するための策を検討し始めています。
これまで「人」によって成り立っていた製造現場は、事業継続の観点からも今後はサプライチェーン管理全体の「デジタル化」を行い、稼働を効率化したスマートファクトリーの実現が必須となるでしょう。
スマートファクトリーが実現された世界とは
まず、サプライチェーン管理全体がデジタル化されたスマートファクトリーの世界を具体的にイメージしてみましょう。デジタル化の大前提には「アナログな人依存」から脱却する必要がありますが、アナログからデジタルへの変化は製造現場にどのような影響を与えるでしょうか。
調達から販売までデジタルデータでつなぐことで、例えば部品の在庫数や位置情報の把握、生産ラインのPLCログやラダーの遠隔監視など、これまで時間をかけて確認や判断してきた工程をスマートファクトリーでは一気通貫で迅速にできるようになります。
では、このようなサプライチェーン全体がデジタルデータでつながるスマートファクトリーを実現するためには何から始めればよいでしょうか?世界中の人とコミュニケーションをとるために共通言語を学ぶことと同様に、サプライチェーン全体の管理に関わるすべてのエリアで繋がる共通ルールを検討しましょう。その過程で有線のネットワークケーブルを敷設することが難しければ無線ネットワークの利用を検討し、外部に出てはいけない情報は遮断制御するなど、管理されるべき情報だけを必要に応じて他の工場や本社に幅広く繋げていきます。
このようにサプライチェーン全体を管理することを意識したOTインフラの刷新と統合を目的に整えられたスマートファクトリーは、産業機器やセンサーなどのIoTデバイスが増え、更に取引先企業、物流会社、販売代理店など、様々な関係企業と繋がるために最適にセキュリティ管理されていることも重要です。
ここまでのインフラ整備のポイントをまとめると大きく3点、
外部ネットワークへ繋がるためのネットワーク環境の整備
他社やクラウド環境と安全に繋がるための情報セキュリティの強化
爆発的に増えるIoTデバイスの適切な管理と運用
が重要となります。次の章から課題を挙げて、更にこのポイントについて詳細にお伝えします。
製造現場が抱える産業IoTの課題
OTインフラの刷新と統合による土台を整えるために、まずその背景となっている製造現場の様子を、生産計画・管理の効率化と生産設備の安定稼働の観点で振り返ってみたいと思います。
まず、生産計画・管理の効率化に向けた課題の例として、
割り込み生産や急な需要の変動、多種少量生産への対応など、急なライン変更に人手がかかる
紙に記録している点検やデータ、手動で管理している在庫状況ではリアルタイムで把握できない
部品の所在が分からない、作業ミスや不良品の原因特定など問題解決に時間がかかる
などが挙げられます。
これらの課題は、配線作業の削減、ペーパーレス化、RFIDの取り付け、センサーやカメラの導入といったデジタル化により、解決が期待されます。
次に、生産設備の安定稼働に向けた課題の例として、
設備の異常や些細な変化など障害予兆に気が付けない
設備の故障時は駆け付けを基本としており初動対応が遅れる
作業員の熟練度によって、品質や作業時間に差が出る
などが挙げられます。
これらの課題も、センサーやカメラの導入や遠隔からの生産設備へのデータアクセス手段の確保といったデジタル化で解決ができます。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受け、産業設備の監視を遠隔からでも行える環境整備に多くの注目が集まっています。
スマートファクトリーに向けたネットワークとセキュリティの課題
では、製造現場の課題を解決するにあたり、工場現場のインフラはどのようになっているのでしょうか。
さらに掘り下げてスマートファクトリー化に向けたネットワークとセキュリティの課題について、それぞれお話しします。
IoT化が進むと、業務効率化を目的としてITネットワークに繋がるデバイスも増加します。快適にIoT機器を利用するために、様々なITネットワークの要件を満たさなければいけません。
まず初めに、頻繁に変更が必要な生産ラインやレイアウトなどに対処するには、煩雑な配線を無くす「ワイヤレス」環境へ移行する必要があります。次に、データ容量は少なくても端末数が膨大なIoTセンサーなどは、同時接続をしても混雑せずに利用できる必要があります。また、広帯域の通信ができ、あらゆる用途に対応できるネットワークも整備しておく必要があります。さらに、広い敷地内全体でネットワークを利用できるようにしておくことも必要です。
最後に、OT用途だけに特化せず、IT用途でも利用できてまとめてネットワーク運用できることも、情報システムの立場からすれば重要なポイントです。
さらに重要なポイントがセキュリティの課題です。従来クローズドネットワークで運用されてきたOT環境も、ITと繋がり始めることでセキュリティリスクが増大します。産業IoTの領域でのサイバー攻撃を発端とした攻撃は、そのまま物理的な被害に直結します。
近年、ITではネットワーク全体が信頼できないことを前提とし、すべてのデバイスの認可と認証を行う「ゼロトラストネットワーク」という概念が注目されていますが、ITと繋がるOT環境にもゼロトラストネットワークを拡張していく必要があります。
しかしOT環境は情報システム部の管理下にないことも多く、セキュリティ対策が追いついておらず手薄なまま整備されていない環境も存在しているかもしれません。IoT機器や産業機器、そしてこれらの機器が接続される環境の安全性確保は、事業継続に直結する重要課題と言えます。実際にラインを停止せざるを得ないような被害にあわれたお客様から、早急にセキュリティ対策を強化したいというご相談を頂くこともあります。
では、具体的にOT環境におけるサイバーセキュリティリスクにはどういったものがあるのでしょうか。
IoT機器がITネットワークに接続されることにより、近年「マルウェア感染」や「不正操作」、「システム停止」、「デバイス改ざん」などの被害が増加していることが報告されています。また、国内ではなく海外の工場が先に攻撃され、海外を踏み台に国内工場や本社が狙われる事件も起きています。
スマートファクトリーを守るサイバーセキュリティ対策とは
これらを踏まえて工場のデジタル化に向けたセキュリティ対策の重要なポイントを3つにまとめます。
OTとITで相互に接続されるネットワークで論理的にネットワークを分離(境界部分にファイアウォールを設置)
接続されるデバイスの識別や分類とポリシーを制御
管理外端末のネットワークへの接続があった際の検知
そして、万が一サイバー攻撃を受けた場合には迅速な対応ができるように、OTネットワーク配下にある機器を可視化して構成情報の管理をしておく必要があります。
今後、多種多様なIoT機器が増えてくることを考慮すると、セキュリティ製品についてはデバイス個々に組み込むのではなく、ネットワーク型のセキュリティが最も有効と考えられます。
セキュリティ対策はOTとITについてそれぞれの特性の違いを理解したうえで統合的に設計する必要がありますが、そのために検討すべき事項は多岐にわたります。スマートファクトリー実現のために具体的にどう進めていくべきか、是非OTとITを理解したプロフェッショナルにご相談ください。